ASSOCIATION OF JOB INFORMATION OF JAPAN
公益社団法人 全国求人情報協会

労働基準広報 2018年12月21日号 REPORT

全求協の専門部会が「若者の早期離職に関する調査」結果を発表
  労働時間や給与などの条件より         
    仕事の意義や意味を重視した企業選びを    

 公益社団法人全国求人情報協会(鈴木孝二理事長、「全求協」)の専門部会である「若者の就職・転職の在り方に関する研究会」(座長・佐藤博樹中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授)は、今年6月、大学卒業後に正社員として就職した若手社会人を対象に「若者の早期離職に関する調査」を実施し、10月31日にその調査結果を発表した。

【若者の早期離職に関する調査 調査の概要】
  調査目的:4年制大学を卒業して就職した社会人について、離職・転職の実態や就業意識等を把握すること
  調査方法:インターネット調査(調査実施期間:株式会社インテージ)
  調査期間:2018年6月6日~2018年6月19日
  調査対象:4年制大学を卒業し、就業経験のある3年目~6年目の社会人1904人
  詳  細:https://www.zenkyukyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/20181031_wakamono.pdf


卒業後数年に納得感得られる仕組みを

 調査結果をとりまとめた『若者にとって望ましい初期キャリアとは』の記者会見において、佐藤座長は、「大学を卒業して最初に就職した企業を、若者が早期に離職することを社会問題とする人が、マスコミも含めて少なくない。…早期離職自体を問題とするのでなく、新卒時の就職活動や企業選びだけでなく、転職も含めて卒業後の数年間の初期の時期に、仕事やキャリアに関して自信や納得感を獲得できる仕組みを整備することが、日本における社会的な課題と言えよう」と指摘。

 そして、今回の調査・分析の目的について、「若い人たちが、自らのキャリア形成構築において、早期離職を必ずしもマイナスと捉えていないことから、若い人たちの離職・転職や就業意識を把握し、若い人たちにとって『望ましい初期キャリア』とはいかなるものであり、その形成を助けることを論じるきっかけになってくれればという思いから分析した」と述べた。

早期転職者の満足度が70%超える

 大卒者の入社3年以内の離職率は、景気や新卒入社時の状況等による波はあるものの、約20年間、3割前後で推移しているが、離職率は業界によって大きく異なる(厚生労働省「新規学卒者の離職状況」)。

 佐藤座長の報告によると、離職率は男女差も大きく、男性より女性の方が高い傾向にあるという事だが、「早期転職者」(大卒3年以内の早期離職後に再就職した者)の満足度は70.7%と高い。小規模企業への転職や賃金が減少する転職でも半数以上が「満足している」と回答していた。早期転職者の早期離職の理由は、「仕事内容への不満」51.5%、「人間関係への不満」40.9%の2項目が突出して高く、仕事内容や職場環境への不満が、初職を離れるきっかけとなっていると考えられるようだ。また、早期転職者ほど、社内ルール、上司の能力・資質、会社の事業方針などについて、入社後にギャップを感じた割合が高いと感じたと回答している。

納得がいくキャリアづくりが重要

報告では、「長期での雇用が当たり前ではなくなってきている現代の状況においては、むしろ、早期離職・早期転職の是非以前に、本人が納得のいくキャリアをつくり上げることが重要と考えられる」と指摘。特に入社後3年までに獲得しておくことが望ましい「初期キャリア」について、本人の仕事に対する納得感との関連を分析している。

 以下、報告によると、①活躍実感を持っている者ほど仕事への納得感が高い事、②早期転職者は3年以上勤続者に比べて仕事への納得感が高いこと、③現在の仕事に納得している者の方が転職時に仕事内容などを重視していること——などがわかったという。そして、望ましい初期キャリアの要素を「自己理解」「仕事理解」「キャリア積極性」の3要素として、仕事に対する納得度との関係をみたところ、3要素ともに納得感の高さと関係しているようであると推論している。

仕事の意義や意味を重視し企業選びを

 さらに、望ましい初期キャリアを獲得するためにどのような活動や意識が重要なのかについて、報告している。

 具体的には、①学生生活、②就職・採用時、③入社後の配置・定着——の各段階における調査分析を行い、以下のような結果を得たという。

 ①学生生活の段階では、㋐大学入学前からの就業意識、㋑低学年(大学1~2年生)時のキャリア教育の経験、㋒入学後の積極的な活動(インターンシップなど)——が望ましい初期キャリアの獲得につながっている傾向がある。

 ②就職・採用の段階では、㋐労働時間や給与などの条件面よりも社会的意義や能力発揮、教育・研修制度を重視したこと、㋑広い視野で就職活動を行うこと——などが望ましい初期キャリアの獲得につながり、㋒就職活動自体を満足して終えられること、㋓就職活動を経て働く目的を持つことができたこと——が望ましい初期キャリアの要素に繋がっている傾向がある。

 特に就職活動では、条件(労働時間・給与など)よりも仕事の意義や意味を重視して企業選びをすることが『望ましい初期キャリア』の要素獲得につながりやすい。

 ③入社後の配属・定着の段階では、入社後3年目までに、キャリア開発のための支援や、その成果を得られている者の方が、そうでない者よりも望ましい初期キャリアの要素が獲得できている傾向がある。

 佐藤座長は、報告において、「日本の大学生にとって、卒業後の初期キャリアの時期は、欧米における長期の訓練プログラムと同様の役割を果たすものといえる。こうした仕組みを整備するためには、若者本人の取り組みだけでなく、大学による学生へのキャリア支援、企業による採用後の育成や活用などの在り方に加え、就職活動を行う学生に対する企業による情報提供を仲介する求人メディアの果たす役割は極めて大きいと考えられる。」と述べている。

㈱企業通信社『労働基準広報』2018年12月21日号掲載

労働基準広報20181221号オリジナル原稿